読書余滴  平成23年7月     戸張道也
「アリストテレスの言葉ー経営の天啓」古我知史・日高幹夫著・東洋経済
プロローグ いま、なぜアリストテレスなのか。
時代の変化のなかで企業が柔軟性を失い、環境適応能力を失わせている。欧米発のマネジメント理論の源流は、アリストテレスを含むギリシャ以来の西洋思想にあったはずである。それが専門性を高めていく中で部分最適化し、トータルな知の体系としての本質的価値を危うくしている。日本と世界をつなぐ経営を考えるとき、求められているのは、形式的方法論、流行の経営理論ではなく、国境を超え、民族を超えた人間という存在への本質的な洞察ではないだろうか。
第一章ビジョンと戦略
1事業の目的の在り様は「善」である。「すべての技術、すべての探求、同様にい行為も選択も、何らかの善を目指すと思われる。」(ニコスマス倫理学)
経営への示唆:事業とは「世の中のためになる、役に立つ、喜んでいただける」モノやサービスを提供すること。
2経営者の「最高善」を事業のビジョンとする。
「人間にとって善とは、生涯を通じての魂の最高の最も優れた活動である。」
経営への示唆:経営者やマネジメントメント・メンバーが、企業の目指す究極の「最高善」を掲げて、企業全体をひとりの人間であるかのように行動させる。
ビジョンや理念は自ら美しいと思っている経営者の「思い込み」でも構わないのだ。「真の危機は誰もが思い込みという信念を持ち得なくなったときにおこる」)
4ビジョンや理念を達成するために「熟慮」する。
経営への示唆:そのビジョンや理念を目に見え、体感でき、経験できるもの、その企業独自の具体的で、ビビッドな「何か」として組み込まなければならない。「熟慮」するのだ。ビジョンと実践行為をどうつないでいけば、うまく、効率的に、連関できるかである。
5戦略は「可能態」から「現実態」に転換する意思
経営への示唆:アップル社を見よ。天才カリスマ経営者スティーブ・ジョブズは常に自らの「最高善」として存在しない未来、理想のライフスタイルの夢を叫び、追い続けた。世界を席巻するグーグルのビジョンは、地球上のウエブのネットワークという沃土に、戦略意図をもってしつこくかかわり続けることによって、現実態としてのグーグルの在り様を生み出したのだ。
6戦略は「活動」ではなく「過程」である。
活動は各時点で完結していて、過程は続いている間は不完全である。
経営への示唆:戦略の展開には二つある。一つ目が改善施策や戦術展開。二つ目が変革や転換だ。アリストテレスは人間的な善であう幸福は「よく生きること」とする。幸福は徳が身についていて、常に活動や過程の中で成り立つ。知性上の徳は「学習」によって、品性上の徳は「習慣付け」によって身に付く。企業に当てはまる。